J-STAR研究について

研究の背景

全身性強皮症は、末梢循環障害と皮膚および内臓諸臓器の線維化を特徴とする膠原病です。わが国では、「難病の患者に対する医療等に関する法律」によって、発病の機構が明らかでなく、治療方法が確立してない希少な疾患であって、長期の療養を必要とする難病に指定されています。レイノー現象や皮膚硬化、関節の拘縮に加えて、手指潰瘍、逆流性食道炎、間質性肺疾患、肺高血圧症、強皮症腎クリーゼ、心筋障害など日常生活動作、生活の質、生命予後を障害する多彩な症状が現れます。

 これまでに行われてきた全身性強皮症に関する臨床研究の多くは、研究機関に保存されている過去の診療情報を分析した後ろ向きの研究でした。このような研究で得られた情報では、症例の偏りやデータの欠落などのため質の高い情報を得ることができません。この課題を解決するため、多施設で登録した患者情報を前向きに収集するレジストリ研究が海外で盛んに行われています。残念ながら、日本では全身性強皮症を対象としたレジストリはありませんでした。そこで、本研究では専門施設に通院している全身性強皮症患者を前向きに登録し、長期に渡って観察する日本における大規模患者レジストリを構築します。

目的・ねらい

日本初の全身性強皮症を対象とした大規模レジストリを構築し、経過や診療内容などのデータを前向きに収集し、適正な医療に結び付けていくことを主な目的としています。具体的には、全身性強皮症における手指潰瘍、逆流性食道炎、間質性肺疾患、肺高血圧症、強皮症腎クリーゼ、心筋障害などの臓器障害の罹患率や発症までの期間を明らかにします。また、すでに間質性肺疾患など臓器障害のある患者では、それらが進行する頻度とその経過を評価します。さらに、将来起こる臓器障害のリスク因子を同定します。これらの成果を通じて、予後に関連する障害が進行する患者さんを早期に見つけ出し、病状が進行する前に個々の患者に最適な治療を提供できる医療の構築を目指します。

国際的に見た研究の立ち位置

多くの国や地域で全身性強皮症のレジストリが存在します。特に、全身性強皮症研究ネットワークであるEurope Scleroderma Trials and Research(EUSTAR)グループは全身性強皮症患者を対象としたオンラインのデータベース登録システムを構築しており(EUSTARレジストリ) 、欧州だけでなく北米、南米、アジアの200以上の施設で20,000人以上を登録しています。EUSTARレジストリ登録データを用いた解析で得られた多くのデータは実際に診療に応用されています。日本でも2018年より一部の施設がEUSTARレジストリに参加しています。J-STARで収集したデータはEUSTARレジストリとデータ共有、比較することで、全身性強皮症の臓器障害の罹患率や予後に違いがあるかを明らかにすることが可能となります。

期待される成果・将来展望

全国規模の全身性強皮症レジストリから創出される質の高いエビデンスは、全身性強皮症の診療の最適化に繋がります。また、収集されたデータは将来行われる診断、評価、治療の開発にも応用可能です。